パレット

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美しさと混沌が混在する舞台「両国花錦闘士」

 

我々は何を見せられているのか。

 

オープニング曲が始まって数秒、衝撃と混乱で少し錯乱した。歌のパワーと演者の爆発したエネルギーが客席に放たれ、しかもその大多数はまわしを身に着けた裸スタイルである。理解が頭の回転に追い付かないと、人って笑うしか出来ないんだな!という感覚はものすごい久しぶりのような気がして興奮の震えが止まらなかった。

 

何の話をしているのかというと、今明治座で公演中の「両国花錦闘士」という舞台の話。

www.ryogoku-oshare-rikishi.com

 

両国花錦闘士は「りょうごくおしゃれりきし」と読む。

1989年から1990年にかけてスピリッツで連載された漫画が原作だ。

 

イントロダクションにざっくりとした説明と写真があるから見てほしい。

www.ryogoku-oshare-rikishi.com

 

  

時代背景とか

舞台は1980~くらいのバブルの時代。

出演者の髪型・恰好・ディスコ会場・そして音楽。これらがその時代にトリップさせてくれる。この時代背景として女性の社会進出があり、その“キャリアウーマン”の象徴がりょうさん演じる桜子だ。

男女雇用機会均等法が成立したのが1985年。そんな時代のお話。

 

何故唐突にこの説明をしたかというと、今の時代と時代感覚が全然違うからだ。今は「キャリアウーマン」という言葉も時代錯誤だし、諸所、フェミニスト的思考の中で引っ掛かる部分がある。それでも!この1980年代の、価値観が動いて流れていく“混沌”としている空気が今の舞台にバチッとはまってなんだか愉快なことになっている。

 

混沌の中に秩序と欲望が渦巻く舞台。それが「両国花錦闘士」だ。

 

 


生で浴びるエンターテイメント

“混沌”とは書いたが、話筋はちゃんと通っているので安心してほしい。突然13月を探しに行ったりすることはない。原作通り話が進んでいく。舞台上では一月場所から七月場所の7か月間の時間が描かれる。

そしてそれを彩る音楽と歌と踊り。明るくて耳なじみの良い音楽は異様に気分が高揚するし、歌詞がストレートに伝わってくる素晴らしい歌声の数々。ダンスの振り付けも時代に準じたバブルみのある踊りから、歌詞をくみ取って表現されたものまでふんだんに盛り込まれていて(梅棒さん振り付け)そこから得る情報もあってとても楽しい。

 

なかでも、力士の皆様が歌って踊るインパクトは衝撃大だ。

 

これは是非、生で浴びてほしい。もちろん、このご時世気軽に会場へ足を運んで観に行ってほしいとも言えないし、誘えないことも分かっている。分かっているのだけど、エンターテイメントがないと生活に張り合いがない!と身をもって分かってしまった人種というのがいて、それが私だ。もし私のような思いを持ってしまっている人がいて、エンターテイメントを浴びたいと思った時、選んでほしい舞台が「両国花錦闘士」だ。

歌や芝居を直接肌で感じて、生の拍手の中に埋もれて、舞台上から男の人たちの野太い声と群舞のすごい圧力を受けてほしい。 客席でその舞台からの圧に潰されないように受け止める体感も私はジャニーズから学んできたので、なんかそういうのも久しぶりだったなぁって、こういうエンターテイメントが存在していることに嬉しくなってしまった。


 

ジャニオタに刺さる?

“ジャニオタ”というくくりにまとめてしまうことは自分自身あまり好きではないけれど、許容範囲の広さとか、頭の回転の速さとか、感受性の豊かさを持つ人たちとこの舞台がマッチしてくるのだと思う。突然歌いだし、はちゃめちゃな笑いどころやネタ的芝居の部分、突然のミュージカル調、歌って踊って客席を巻き込んでHAPPY!みたいな所。全部器量でマルッと愛してくれるはず。

でもそれだけじゃなくて、ストーリーとして力士としての成長過程や、心に抱えているトラウマ・欲望が人間らしさに色を添えていて出演者が全員愛おしく思える。ジャニーズの舞台もJr.含め出演者全員素敵に見えるしそれも楽しい、みたいなものを感じることが多くて、その部分が今回の若手の座組の「両国花錦闘士」にも当てはまってくると(私が勝手に)思っている。

 

 

原嘉孝くんのお芝居

明治座前の のぼりを見て、なんかとても感慨深くなったよね…。

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外部初めての舞台「スクアッド」ではその間の取り方の秀逸さと、ある一言のセリフ、その声のトーンで新国立の小劇場の空気が一気にウルフに持っていかれ「メタルマクベスdisc2」では、彼の芝居には会場の広さを物ともしない空間を埋める力に驚愕したのがほんの二年前なんて今考えてみてもびっくりしている。

当時から空気の掴み方・間の取り方・発声の仕方・身のこなし方。どれをとっても素晴らしくて。こんな人が今まで日の目を見なかったなんて嘘だろ?!って本気で思っていた。

生まれ持った才能なのでは?!って異様に興奮していたけれど、ちゃんと役に向き合って悩んでもがいていたことを後に共演者の方が教えてくれた。 

大千秋楽おわったよ。いろいろ書いてみました。 | 武藤晃子の六畳一間 (ameblo.jp)

これは「スクアッド」の時に、お芝居を教えてくれた共演者の方のブログ。ウルフという狼男役、今思い出してもとても好きだ。優しくて強くて身体能力が高くて。ブログに書かれている「憑依した」というのは本当にその通りだった。

 

原くんはこの時からさらに色々な舞台を経験した。

そのすべての作品にひたむきに向き合って、一つ一つ成長していく様。

元々持っていたポテンシャルに甘んじることなく一歩一歩着実に歩んで、本格的に芝居を始めて3年目にこうして明治座に主演として立っていることは彼の努力の結晶で、それが原くんを輝かせているんじゃないかと思う。そしてそれを理解してくれる人たちが周りに沢山いることも。

原担としては、この降って沸いてきた『主演』という位置がこのような素敵な舞台であったことは本当に嬉しく思っている。

 

塵手水の美しさで5時間は語れる

原くんの舞台を見ていると、確かにこういう人こういう仕草しがち!とか、着眼点の良さや細かい作りこみもものすごく自然に感じる。芝居がナチュラルで丁寧。今回は力士の役なのだけど、その力士の動作も基礎稽古を学んで身に着けたのがはっきりとわかる。私が特に好きなのは相撲の取組前、立ち合いをする直前の蹲踞の時。

本当に綺麗に膝を折り曲げて座り込んでいて、その姿勢から塵手水を行う動作が本当に美しいんですよ。つま先立ちで座ったまま、背筋がシャンとして、腕が動き、それにともなって肩甲骨も動く。私は相撲が好きだった時期があるので、この塵手水の動きの綺麗さとそれに伴う筋肉の動きの素晴らしさに感動した。

「塵手水」の仕草がどういうものか、下の動画を見て欲しい。この舞台「両国花錦闘士」で相撲指導に入ってくれた両國さんが指導されています。

 

www.youtube.com


お二方の動きを比較してほしい。本物のお相撲さんの姿勢と動作の違い。

 

実際にやってみれば分かるんだけど、蹲踞の姿勢、意外と難しくないです?(私に筋肉が無いという話は置いておいて)座ることは出来るんだけどこれを維持するのが難しい上に、背筋を伸ばすのに背筋が必要ということが分かる。そしてこの姿勢で上の「塵手水」の動作をしていくのだけど、この腕を動かすときの体勢維持と、腕を地面に水平の位置まで上げるように持っていくことがどんなに辛いか。この動きの原くん本当に『美』なんですよ。

原くんが演じる「昇龍」は相撲の美学がある役柄なので、この動作が美しいことと役柄がリンクしてさらに説得力が増す。そういう部分も原くんを見ていて飽きないし、とても楽しい。

ラストに向かっていく主人公:昇龍の「美しさ」。芝居の中に全てが詰まっているので瞬きせずに見て欲しい。

付け加えるのであれば「塵手水」の時の肩の筋肉の話とかしたいけれど、あまり受けないと思うのでこの辺でやめておきます。でもこの時の肩の筋肉の動き、よかったら見てください。あと「時間いっぱい」になって、さあ取組!っていう時の、気合を入れるために太もも?お尻?の辺りををパチンっと叩くのも見てください。気合がみなぎっていて最高にかっこいいので。

 

そんな舞台、まだチケットがあります

 東京
明治座
 
~12/23(水)まで
明治座インターネット予約
  席とりくんトップページ | 明治座 公式サイト (meijiza.co.jp)
・ローチケ
  両国花錦闘士|ローチケ[ローソンチケット] 演劇チケット情報・販売・予約 (l-tike.com)
東宝ナビザーブ
  東宝ナビザーブ (toho-navi.com)
・当日券 明治座チケットセンター 
  公演当日の開演2時間前まで受付
電話:03-3666-6666 (10:00~17:00)

大阪

新歌舞伎座

2021年

1/5(火)~1/13(水)

  両国花錦闘士(りょうごくおしゃれりきし)|公演情報|新歌舞伎座 (shinkabukiza.co.jp)

 

福岡

博多座

2021年

1/17(日)~1/28(木)

『両国花錦闘士』|公演案内|福岡の演劇専用劇場 博多座 (hakataza.co.jp)

 

現地に行けない方へ

上記会場まで足を運べないという方には全国約100館でライブビューイングがあります!
日時:12月15日(火)13:30の回 18:30の回 の二回 
  上映映画館によってはどちらかのみの可能性あり

www.village-inc.jp


予定上映館:https://l-tike.com/cinema/pdf/201114_ryougoku_01.pdf
  チケット発売:12月15日(火)am0:00より随時 各映画館にて

 

 

本当にいろいろあった2020年。 

 

ちっとも明るい兆しの見えない状況下で、これだけ笑えてエンターテイメントの可能性を感じる舞台に出会わせてくれてありがとう。関係者の皆様に祝福を。

 

女神さまがいるのならば、この素晴らしい公演が多くの人の心に触れる機会が損なわれませんようにと願うばかりである。

 

 

余談だけどパンフレットがとてもセクシーです!ライビュ会場でも販売するみたいなのでよかったら手に取ってください!